たとえばセカイが沈むとき


 頭では理解していたが、感情がついてこない。

 信じたくない気持ちが先立って、夢だったらどんなにか良かったろうと、拳を握り締める。毎朝。

 僕は無神論者だが、神の存在の必要性を知った。祈り、慈悲を乞う為ではない。このやり場のない怒りの捌け口として、だ。

 もし神が居るなら、チサトを連れて行く筈がない。彼女はまだ親孝行もしておらず、何もかもがこれからのひとだったのだから。

 誰でもいいから僕を、チサトが死んでいない世界に連れて行って欲しい。時を巻き戻してくれたらいいのに。

 その誰かは、神よりも、悪魔のほうがしっくり来る。今までの善行なんて僕にはないから、対価を求める悪魔にしか相手にして貰えないんじゃないかと思うからだ。

 皆に平等な神よりも、欲望に忠実な悪魔のほうが、一縷の望みが繋がる気がした。

 だからといって悪魔を呼び出す儀式なんて馬鹿げた事をするつもりはないが。

 しかし一年も経って突然“悪魔”が来た時、僕は全てを投げ打ってでも、このチャンスを逃すまいと思った。


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