名も無い歌
名も無い歌
「ありがとう」

「ごめん」

音楽の好きな君は、閑寂な世界に消えていった。



〈Silent-Alone-World〉



イヤモニを着けて、マイクに息を吹き込む。相方をちらと見やると、向こうもこちらを見て笑った。
柔らかい笑みに柔らかい歌声。丁度良いテノールは俺も好きだ。

「どうしたの?」

「ううん、何でもない。じゃあ始めようか。」

バックの楽器隊が奏でるメロディーに、歌声を乗せる。彼がメイン、俺が上ハモ。時に俺がメイン、彼が下ハモ。

〈独りの暗闇で 泣いていた僕を君は 光で包んでは 連れ出してくれてたんだ〉

本当はこの歌が嫌いだ。彼はよく経験を描く。それは一部かもしれないし、全部かもしれないが。これはきっと俺たちの歌だと思った。
彼は気付いていたんだ、と。

それは丁度、最後の前の春ツアーのことだった。


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