名も無い歌


四年前の10月、国立代々木競技場第一体育館。俺たちは初めて憧れのホール級の会場に立った。

「おはようございまーす。」

「おはようございます。」

ゲネプロ特有のぴりぴりした空気に、「ああ俺たちはここに来たんだ」と実感する。

アザミと俺は別の声出し部屋でウォーミングアップをする。リハでやる曲を念入りにチェックする。楽屋に戻れば、彼はギターを弾いていた。

「また上手くなったな。」

「そうか?」

くすっと笑ってアザミは弾くのをやめてしまう。ちょっと引き止めたかったのは内緒だ。

「リハーサル五分前です。」

「よし行くか。」

数曲をピックアップした上でのリハは、大きな問題もなくゲネプロに入る。メイクをして衣装に着替えてステージに立つ。本番さながらの空気に、観客が見えてきそうだ。1ブロック(=MCまでの区切り)ずつ、MCは飛ばしていく。俺たちや楽器隊(ドラム除く)は花道を駆け回る。
一通り終わった後の疲れと汗はハンパなかった。

そして次の日の本番、正直興奮して眠れなかった。アザミに電話すると、「おれも」と笑って言った。

「やっと来てやったぞー!」

ステージ上でライトを浴びながらアザミが叫ぶ。ピンスポではないものの、照明はかなり熱い。ありがたいことにソールドアウトした席は見事と言うべき景色だった。

「気持ち良いなあ。」

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