名も無い歌
次の年の8月、俺はとんでもない真実を知ることになる。
「嘘、だよな?」
「いや、残念ながら。」
何でだよ、何でまだ夢の途中なアザミが、夢を諦めなきゃいけないんだよ。俺は拳を握り締めた。彼のその手も少し震えている。
「いつ聞こえなくなるとか分かるのか?」
「もって半年ってとこらしい。だから12月に、ラストライブがしたい。」
「どこ、で……?」
アザミの目は真っ直ぐ俺を見ていて、決心は揺るがないように思えた。俺は嫌なのに、ラストライブなんてしたくない。俺のパートナーはアザミしかいない。他の奴とは一緒に歌えない。それなのに彼はやめるというのか。
「東京ドーム……なんて無茶言わない。さいたまスーパーアリーナでも横浜アリーナでも良いけど、それも難しいだろう。だから、日本武道館で良い、そこでやりたい。」
「武道館、か。俺は一緒にドーム行きたかった。」
「うんおれも。」
今にも泣きそうな珍しい笑顔で言う彼に抱きつく。
「あんま追い込むなよ。」
「サンキュ。」
そう応えた後に、「本当にありがとう」なんて頭を下げられて俺は、なんとも言えない気分になった。