名も無い歌


2008年、12月11日、九段下の日本武道館。入り後のムードは至って去年と同じようにまずまずの緊張を纏っている。スタッフさんは忙しなく働き、楽器隊はチューニングや音出し、アザミは音響の最終確認と声出し、俺はステージ上の最終確認と声出し。

「今回のラストライブ、よろしくお願いします。」

スタッフの一人の掛け声に、居る人全員で返事する。最後のリハだ。

「じゃあ1ブロックの出だしの入り方、お願いします。」

オープニングSEから始まり、入りを確認するとすぐさま別の曲へ。何曲かやったあと、俺は切り出した。

「最後の曲、いいですか?」

あまり練習するの嫌だなー、と言っていたアザミの意思に反するが、失敗出来ない曲だ。心配があった。

アザミの奏でるアコギ一本の音が、会場に広がる。それにエレキやベース、ドラム、シンセの音が重なった時、不覚にも泣きそうになった。

(これじゃあ、お客さんがいる本番じゃ号泣かな。)

皆の音に俺の声を乗せる。これなら大丈夫だと、直感的に判断する。

「本番かと思った!」

終わった後のマネージャーの第一声がこれ。それだけ心が籠もっていたんだろう。なんせ拍手までされるくらいだから。
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