ズルイヒト
「必要ない……ああ、美伶の家も引き払わないと」


 冷たい一言の次は、淡々に私に関わることを勝手に決めていく。ここに住むことで、引き払うことなど、分かりきっていたこと。


「じゃあ、服とか。そのぐらいは――」

「好きなの揃えて買ってやる言ってんだ。同じこと言わせるな!」


 身体が大袈裟にびくつき、カタカタと震えてしまうのは、突然の大声に驚いただけではない。久央に罰を受けていた恐怖がまだ脳や身体の先まで染み込んでるからだ。


「お前は俺の所有物なんだ。迷惑かけるとか勘違いしてんなよ。
ただ俺があげるもん以外を身につけてたり持ってたりするのが気に入らないだけだ」


 私には迷惑をかけると相手を気遣う権利もないらしい。私は、ただの久央専用の着せ替え人形でいればいい。


「……分かった」


 一様、物を選ぶ権利がまだあるからマシと、自分をにいい聞かせて、相手の機嫌を伺い久央が求める正解の言葉を返した。


「そこに座って待ってろ」


 乱暴な口調は相変わらずだが、先ほどのように怒気は含まれていないことから、機嫌の方は落ち着いてきたようだ。


 ここ、と久央の指先が示した場所。カーペットを敷いていないフローリングに座れば、先ほど暖房をつけたばかりなので、まだ冷たさを感じる。


 目の前にある小さなテーブルは最低限の生活をするためだと思わせる折りたたみ式の安っぽいモノ。


 この綺麗で広い部屋に似合わないテーブルはきっと私と選んで明日以降に立派なテーブルに変わるんだろう。
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