forget-me-not
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うちの大学は広い。だからまだ、全部を見て回ったことはないと思う。
なんだか授業にでる意欲は湧かなくて、なにをするでもなくプラプラと敷地内を歩いていた。
何をしていても昨日リカに言われた一言が頭の中を駆け巡って……沈んだ気分は停滞したままだ。
――ふぅん、またあの人でしょ、どうせ。
うじうじうじうじ
情けないのはわかっている。
けれど消えないのだ、いい意味でも悪い意味でも。
無理に存在を消そうと頑張る私と、そういうのにはもう疲れてしまった私が居て。
(…だけど、だからってあんなこと続けてちゃ、だめよね)
あの森の少年のこと……超常現象サークルを作ったのだって、考えてみるとちょっとした現実逃避だったのかも。
「ねー、早く。新戸くんの試合終わっちゃうよ」
「待ってってばぁ」
私の脇を2人組の女の子が、そんなことを口走りながら駆け足で通り過ぎる。
「ぎゃ、靴脱げた!」
「もうバカー!」
かたっぽうの靴を指に引っ掛けて慌てて履き直しながら、背の低いほうの子が前の子を追いかける。
(…新戸くんの学年の子かな?)
新戸、なんて名前そんなにいるものじゃないから彼のことだろうなと推測して、私は2人の背中が遠ざかるのを見ていた。
(…あっち、なんだっけ)
たしか試合がどう、とか。
(…新戸くんがシアイ?)
なんだか繋がらない。