forget-me-not
どうやら試合は終了らしく、爽やかな笑みを口に広げて対戦相手と握手を交わす新戸くん。
ここにいる全ての人が、彼に意識を向けているだろう。
いつも私の勝手な調べものに付き合ってくれて、犬みたいにあとをついてくる彼と、今目にしている彼との差違を実感して、なんだか居心地が悪くて意味もなく俯いた。
(…なんだか、違う人みたい)
自分の爪先を眺めながら、それをヒョコリと動かしてみる。
大勢の中に紛れ込んで視線が合うどころか、ちっとも気づかれないことが少し寂しかったのかもしれない。
カシャン。
未だひょこひょこと動かした爪先に意識を集中させていれば、突然私に近い距離で物音が響く。
ピクリとそれに反応して、俯いた顔をあげた。