forget-me-not
「――先輩、来てくれたんだ」
僅かに息をはずませながら肩を上下させて、いつのまにか屈託のない笑顔を浮かべた新戸くんがフェンス越しに立っていた。
カシャン、という音の正体はどうやら、彼がフェンスに片手をかけた音だったらしい。
『新戸、くん』
「あ、えっと……」
見上げた私と目が合うと、視線を泳がせて片手を後頭部へやる新戸くん。
そんなあからさまにきまづさを露呈しなくても、とは言わないが。
「避けてごめ…
『あの私…
ハッと開きかけた口がとまる。
お互い同時に言葉を発してしまったせいで、新戸くんにも私にも、照れくさい苦笑が浮かぶ。
『いいよ、先』
「先輩が先に、」
『…っ、いいから』
もう、と私まで髪を耳にかけながら、彼の言葉の先を促す。
ちらちらと横目で先程の2人組をとらえれば、案の定なにやら耳打ちし合いながらこちらを睨んでいた。
(…ああ、もう。余計な注目浴びちゃってる)
「避けて、ごめん」
カシャン、と再び音を鳴らして、静かに吐き出された謝罪。