forget-me-not
「ちょっと待っててください、」
思い立ったように高い声をあげた新戸くんは、コートのほうへ戻っていく。
どうしたのかと見守っていれば、律儀にも他のプレイヤーと挨拶を交わしている。
「――はぁ。でも先輩に見られてたなんて、今更緊張してきた」
向こう側の出口を抜けてこちらに戻ってきた新戸くんが第一声を発する。
『でも、じょうず…だったよ?』
私が遠慮がちにその顔を見上げて言うと、わずかに火照る彼の顔。
大きな目をぱちくりさせるその様相はやはり、イヌみたいだと、改めて実感。
「と、途中から先輩みつけて、慌てたから、その…。」
『え…?』
「急に来るからびっくりして」
『あ、ごめん』