forget-me-not
「――ねぇ、先輩?」
カランカラン――――。
スローモーションのように、右手から滑り落ちて、地面に転げ落ちた桃カルピスの缶を眺める。
薄桃色のそれが、コンクリタイルの地面に広がっていく。
そして
『新戸、くん…?』
私の左手は何故か不可抗力にも新戸くんの手中にある。
―――トクン、トクン
左手のひらは新戸くんの胸に押し当てられている。
そう、唐突に彼は自身の胸に私の手を押し付けたのだ。
『な、に、やってんの?』
「今だってほら、ドキドキ、してるでしょ?」
『え、…あ、う、ん』
トクン、トクン。確かにその鼓動は生温かい体温の奥で、しっかりと存在を主張していた。
「先輩が、そうさせるんだよ?」
瞳を細めては、甘く掠れた吐息とともに、新戸くんがそう呟いて…
次の瞬間には左手ごとその胸の中に抱き締められていた。