forget-me-not
突然すぎる事態と、いつもとは違う色香を放つ新戸くんの胸の中で、私は混乱していた。
(…あ、敬語じゃない)
律儀にいつだって敬語だった新戸くんが、今だけは、敬語じゃない。
だから違う人みたいなの?
『ね、新戸、くん、カルピス、……零れちゃったよ』
とりあえず距離をとろうと、遠慮がちにそっとその体を押し返しながら、そう告げれば
「黙って、?」
努力の甲斐なし。
優しいけれど、些かきつめの語調で私の言葉は遮られ、余計に強い力で抱きしめられてしまう。
『ねぇ、ちょ、っと…』
熱い。なんなのこれ。
正常だった私の体温まであがるのは、彼の体温がこちらまで伝わるからなのか。
トクトクと波打つ彼の心音も耳元でリアルを増して、感染した私まで胸が高鳴る。
(…突き放さなきゃ、)
そう思うのに、上手くいかない。
「、好きすぎて、ダメってわかってるのに、……抑えられない、よ」
左耳にかかる、熱い吐息。
そこから私に流れ込むものは、脳みそまで伝染して、正常な判断力を削いでいく。
理性が、崩壊していく。