forget-me-not
『ゃ…、な、』
小刻みに甘噛みは続き、くすぐったさと戸惑いに身をよじる。
今日の新戸くんはやっぱりおかしい。いつになく“男の子”だということを実感させられる。
そんな香りを放っていて
(…なに、発情期?!)
甘噛みと、舌が耳の縁を這う感覚に、現実から離れようとしている理性を必死でつなぎ止めようとそんなことを考える。
が、ふわついた意識は遠のき、耳から侵入する音が、脳を溶かしていく。
『ぁ、らと…くん、』
彼を引き剥がそうとしていたたはずの両手は、いつのまにか腰がくだけないように必死で体を支えるためにしがみつくだけに変わっていて。
(……も、駄目なのに、考えられ、ない)
「耳、弱いんですね」
こそり、新戸くんの息使いに火照って濡れた耳がひやりと冷える。
やけに落ち着いたその声音に少し腹が立って、耳から口許を離したその隙を狙って、思い切り彼の顔を仰ぎ見た。
「何ですか?」
キッ、と睨んであげたはずの私の表情はそう尋ねられてブレる。
というのも、唖然としてしまったのだ。
だってそこに居たのは、弓なりに口許を引き上げ、どこか余裕さえ漂わせて悪戯そうに笑う人。
先程まで気持ちを制御できずに、私を必死で抱きしめていた新戸くんではなかったから。