forget-me-not
「やだなぁ、そんな顔しないでくださいよ」
眉尻をさげて情けなく笑う新戸くんに、胸の奥がキュ、と鳴る。
これは罪悪か背徳か、はたまた同情なんだろうか。
そんな事に思考を這わせながら、私は冷たい手のひらを握りしめた。
「泣きそうな顔、してますよ?」
『そ、お?』
「あーあ。先輩を泣かせる程、困らせちゃったかな」
ニッコリ、違和感があるくらい、やけに明るい口調でおどけてみせると、新戸くんはその腕をあっけなく解いた。
(…わ、)
包まれていた温かい体温と、新戸くんの優しい香りから解放されて、外気が一層冷たく感じる。
「ごめんね、先輩」
“いつも通りの新戸くん”は、パーカーのポケットに両手を入れて、肩を竦める。
なんで、謝るのだろう。なんで、笑顔なのだろう。
――本当は、新戸くんのほうが泣きたかったよね?