forget-me-not
***
『……あ』
「、え、アッレ?フウ?――はっやかったわね、アハハ、おかえんなさーい」
マンションの廊下をとぼとぼと進んで顔をあげると、何故だかリカが居た。
私が帰ってきたことに対して、何だか随分と驚いているように感じた。
『ど、したの?あれ、今日って確か…』
「あ、…うん、そうなのよ。何か急にね、デートする気分じゃなくなっちゃって。あ、で、この前あたし、フウの家に忘れ物したかなぁって。でもあった、今、ほら、見つけたのよ。だから大丈夫、ね?」
おかしい。毎度のことにしても、今日は何だか饒舌すぎる。それに纏まりのない話し方…。
クールなリカらしくないそれに、私は眉を顰めた。
『何忘れたの?』
「えーっとほら、これよぉ、時計。外したと思ったんだけど、バッグの内ポケットにあったの。もう、やんなっちゃう」
『……そう』
はて、時計?そんなもの外したりしてただろうか。
そもそもわざわざ取りに来なくても一本電話くれれば――
「でも、あったから良かったわ。無駄足だったわね」
『あがってく?』
「ん、や、今日はいいわ。遠慮しとく」
『そ?じゃ、また明日ね』
「ん、そうね。お昼に待ってる」