forget-me-not
『……え、何で、』
「何が?」
さっきから何でばかりが巡る私に、更にこの男は何がと重ねる。
『もう、カオス…』
今日1日。何なんだろう、これ。まず――
『どうやって入った?』
「普通ドアからだろ」
『鍵は?』
「開けた」
『だからどうやって?』
「…………」
何故、黙るの。そこで黙られたら元も子もないじゃないか。
なんだか頭痛がしてきて、眉間に人差し指を押し当てながら溜め息。
考えてみればそんなに驚くことでもないのかもしれない。
気づかないうちに鍵の型をとられた可能性だってある。それにピッキング犯ならば開けられないものでもないかもしれない。
(…この鍵、ピッキング対策されてたっけ?)
そこまで考えていると、冷えた視線とかち合った。
あぁ、そうか。
その笑っちゃうくらい端正な面もちを眺めていたら、小さいことに必死で考えを巡らせている私が馬鹿らしくなった。
夜くんは人間の命を再生させてしまったんだっけ。
鍵を開ける、なんて、とてもちっぽけなことじゃないか。