forget-me-not
「ど う し て 耳 を 噛 む の?」
私の顔を覗き込むようにして、夜くんが形の良い唇から紡ぎ出した。
パチ、パチ、と音がするくらい長い睫毛を瞬いて問う。
その距離に心臓が不覚にもドキリ、鳴る。
ほら、もう夜くんのフィールドだ。完全に捕まってしまった。
『それは…』
口ごもる。どうして耳を噛むのか、なんて考えてみれば説明のつかない話だ。
目的は、意図は、なんて理論的なものじゃみえてこないだろうし。
「あれは人間の求愛行動なの?何度か目にしたけど、わからなかったんだ」
『求愛行動、っていうか…』
「人間って時々、不可解なことをするよね。他にもxxxとかxxとかxxxとか」
(………………。)
効果音には「ピー」が適当だろう単語を連発する夜くんに、私ばかり1人焦る。
今日どうしちゃったんだろう、この人…。と少しばかり心配になる。
「本当、合理的じゃないよ」
その後も、「どうして意味のないことばかりするのかな」と一頻りブツブツと呟いたあとで、夜くんはやっと私の側を離れた。
(…はぁ。)
その至近距離から解放されて、とりあえず安堵。