forget-me-not
『じゃあ夜くんはなんで、』
(…なんで私にキスしたの?)
そう訊こうとしたのに、口が上手く開かない。
どんな答えが返ってきても、それはあまり良いものではない予感がするから。
(…それは合理的な理由からなの?)
そもそも返ってくる答えに何を期待しているんだろう。訊いて、どうするというの?
「何?」
カウンターに座り直した夜くんが首を傾げる。
ああ、意志疎通ってなんて難しいんだろう。その青いガラス玉に見つめられて、その奥が全く読めないことがもどかしい。
私はこの人との距離の測り方が解らない。
「ううん、何でもない」
軽く首を横にふってその横を通り過ぎると、私もソファに腰を沈めた。
「新戸くんのことね、私、凄く好きなんだ」
突然切り出したせいか、夜くんが振り向いていつもより多く反応を示したのがわかったけれど、私は前を向いて話し続けた。
「でもそれは恋愛、とかじゃないの。ただ、好きなだけで。でも新戸くんは私に形のあるものを求めてる。私が求めてるのとは違うもの。それが凄く辛いんだ」
そこまで話すとフゥ、と息をはいて、だらだらとさっきより深くソファに沈んだ。