forget-me-not
その柔らかな唇がわたしのそれに触れる。
触れるだけではない。そっと、下唇をくわえられ…その瞬間、鼓動が確実に速度を増していくのを感じる。
どくどくどくどく…これは血流の音だろうか。舌こそ交えてないけれど、何度も優しく唇をついばまれる。
とくとくとく…キスってこんなにドキドキするものだったっけ。
――キスの快感は、相手への思いと比例する
いつだか聞いたフレーズがぼんやりととろけかかった脳内に浮上した。
(…なに、かんがえてんの。そんなわけ…だいたい…)
だいたいこの甘すぎるキスは、振りほどくべきものなのだ。そうじゃないと。そうじゃないと。だって、夜くんはこれっぽちだってそういう感情を持っていないのだから。
(…どうせ、これはまたただの実験なんだよ?)
自分に言い聞かせているのに、溶けきった脳内から発せられる命令を、痺れた体はきいてくれなかった。
ひたすら、溺れ、溺れつくしていく…――
『な、…んで?』
どれくらい時間がたったのかわからない。やっと彼の唇がゆっくり離れた瞬間に、ぼう、とする頭から言葉を振り絞った。
まるで、まるで愛だと錯覚してしまうような優しいキスを拒むことができなかった。