forget-me-not
――わたしと神谷の出会い。それは、終わり方と比べたらほんとうに普通で、幸せな始まりだった。
麗らかな春。高校二年だった私は、正門をでて桜並木の中したを向いて歩いていた。
満開に咲いた桜の花びらが、風にのって空中を無数に舞っていた。それはそれは綺麗な光景で…。体のあちこちに花びらが落下してくるくらいに桜の雨でも降っているかのよう。一面桃色の世界。
なぜ下ばかりみながら歩いていたのかはよく覚えている。
木から離れたばかりの花弁は、指でつまむとあとがつくくらいに柔らかく、瑞々しい。
それなのに…人の足の下に積もったそれは、あっというまに端のほうが茶色くなって、くしゃくしゃになり、無数の傷跡がつく。
その憐れななれの果てを、無感情にみつめていたのだ。
それは今思えば、私たちの行く末を予兆しているみたいだった。
あぁ、あの時……そのまま顔さえあげていなければ。