forget-me-not
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「…それで莉子さん思いっきりフられちゃったのよぉー?」
『ふーん』
大学のテラス。
私とリカは優雅に紅茶を飲む。
もっぱら殆ど、彼女の自慢話兼世間話に耳を傾けるのだ。
「だって莉子さんっていったら、あたしが一番尊敬してる先輩でぇー…『眉目秀麗でリカが憧れるマドンナ、でしょ』
「そうよぉー」
『はいはい、それもう百回くらい聞いた』
少し冷たくリカの台詞を引き継ぐと、片肘をついてブスッ、とする私。
「フウ、どしたの」
リカは私の異変に気づいたのか、携帯を打つ手を止めた。
『別にぃ』
「新戸くんと、喧嘩でもしたわけ?」
『違うよ。新戸くんと喧嘩する人なんて居ないと思う』
「…確かに」
それ程に彼は、可愛くて温厚だ。
ペットの犬にしてしまいたいくらい。
「じゃ、なによ。上の空」
『んー…』
なかったのだ。
あの本の中にさえも。
(…ヒントなんて、どこにも)
どこにも、ない―――。