forget-me-not
もう私の目を見てくれない夜くん。
どうしたら、彼に、いや彼の心を完全に開けるの?
もどかしくて、胸がせつなくて、こんなに近くにいるのに遠い。
『そっか』
だからつい、こんなふうに言ってしまう。
『リカにも、キスしたんだもんね』
本当に言いたいのは、こんなことじゃないのに。
動揺すればいいと思った。
人間がそうするのと同じように、目を泳がせて慌てて、必死で弁解すればいいと思った。
そうしてくれたら、少しは気が晴れたかもしれないのに。
だけど、夜くんはそのどれもしてはくれなかった。
「あぁ、したよ」
たった、それだけ。
「ちょうど今、キミと僕が立っているこの場所で」
何の悪びれも、後ろめたさもなく、飄々と。
(…あぁ、やっぱりあの時死んじゃえばよかった)