forget-me-not
『ネェ、リカ』
『リカってば』
『ごめん、って…』
講義中、前の席に座るリカの背中に小声で話しかける。
『良いことって、なぁに?』
そう訊いた私にガバッ、振り向いたリカ。
マスカラで強調された綺麗な目許を数回瞬かせて、鋭く私を睨んでは
―――言ったのだ。
「くるよ、電話。…黒川夜から」
口早にそうとだけ言うと、くるり、前を向いてしまうリカ。
『………』
(…ハァー?!)
現状把握がいまいち出来ない。
黒川夜から私にくるよ?電話?益々解らない。
第一私はその噂の黒川くんと会ったこともな……
(……い、)
講義室の入り口から私を見上げていたあの姿と公園で出逢った時の姿が、ふと脳裏をよぎる。
『――ねぇ、どういうこと!?』
講義終了後、半ば叫ぶように彼女の肩を揺さぶった。
「だから、彼にフウの番号教えちゃったのよぉー」
『っ、何で!』
黒川 夜を落としたがっていたリカが、何でわざわざ私なんかの番号を教えるというのだ。