forget-me-not
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―――‘久しぶりだね、雨嶺 風’
黒川 夜からそんな唐突な電話がかかってきた23時。
私は震える手で携帯を握った。
‘だ、れ…’
‘また今度、って言ったでしょ’
‘……っ、’
アイツ、だ。間違いない。
また、今度――なんて、フワリ、艶やかに長い睫毛を伏せて後ろを向いて去った、あの男。
じゃあ講義室の入り口から私を見上げていたのも…
(…錯覚じゃ、ない?)
‘元気に、していた?’
‘…誰!’
‘、’
もう解っている癖に、叫ぶように問いかけた。
名前じゃない、お前は「ダレ」なんだ、と。
‘黒川、夜’
彼は少し黙ったあと、何の情動も感じられない無機質な声でそう言った。
‘…何の用?’
‘、’
黒川 夜はまた黙る。
その束の間の間でさえ、恐くなる。
(…抵抗できなく、なりそうで)
馬鹿らしい。何に、抵抗するっていうんだろうか。
‘キミに、手伝って欲しいんだ’
‘、何を?’
そう訊けばまた黙する黒川 夜。
どうして私なんかに、何を、あなたは誰で、何者…?
‘また、明日’
―――……ツー、ツー、ツー
切れ、た。