forget-me-not
―――また、明日。
妙に残るその声質は、次の日の私の鼓膜を容赦なく何度も叩いて、いや、記憶がそうさせるのだから脳内を、だ。
(…明日、って、)
神出鬼没の黒川 夜。
気配もなくスルリ、気付けばこちらを見つめるあの無感情な瞳は言うまでもなく、
(…苦手、だ)
「かかってきたァ?」
今日も大学のカフェへ向かう。
リカが頻繁に変える髪型を弄んで、そう私に尋ねた。
『う、ん。来たよ』
「…え、何だって何だって?あたしの事なんか言ってたぁ?」
首を横に振ればむっ、と真っ赤な唇を尖らせる。
ダイエット中らしい彼女は物足りなさそうにサラダを咀嚼。
「何話したのぉ?」
恨みがましい目。嫉妬とかいう未知なやつだ。
私は嫉妬なんて絶対にしない。したこともない。
(…されたほうは、地獄)
「フウ、フウ、聞いてんのぉー?」
ハ、と気付けばリカが私の目の前でしきりに手を翳す。
(…あぁ、)
もうこの一瞬意識が飛ぶ症状、なんとかならないかな。と苦笑する。
『なんかいきなりね…』
嫉妬といってもリカの場合、並の女とは違うから本気で妬いてるんじゃなくて、ふざけてるんだろう。
でも、「あの出来事」はなんだか、言ってはならない秘密のような気が漠然とした。