forget-me-not
(…っ、また切った、一方的)
「誰?」
『黒川夜』
「何だって?」
『会いたいみたい』
リカはふーん、なんて頬杖をつきながら目を細めて私を見た。
気紛れな彼女の真意なんて分からないしたいして興味もないけど。
「フウさ…、?」
『ん?』
「…電話、慣れないね」
強気なリカの眉尻がさがる。諦観ともとれる憐れみの視線を私にくべる。
『別に…?』
静かに斜め下を向いて不機嫌顕わに言い放った私の心中はきっと彼女に筒抜け。
やけに冷たい秋風が私の細い髪を弄んで頬にかかった。
「なら、いいけど!」
リカは席を立つと携帯片手に電話をかけながら去っていく。
その背中を見つめながら、周囲の人々の笑い声も、なんだか胸の内をざわめかせて。
ここだけ、現実から浮いたように遠のいていく気がした。
――カタリ、
カップをテーブルに置く音だけがリアルで、寂しく耳に響いた。
(…なんで、こんなんなったんだろ、私)
唇をきっと強く噛んでは結び、仏頂面で俯く私はさぞ、惨めに違いない。