forget-me-not
「…僕には解らないんだ、どうしても。人間の恋愛ってゆうのが」
満月を見上げながら缶コーヒー片手にそんな事をこぼす。
『恋愛したこと、ないの?』
「ない」
恐る恐る訊けばキッパリ、こちらを見据えて断定する。
(…わわわ、だからこっち見ないでって、)
眼力に負けるものかと一瞬抗うも無駄だとわかり目を逸らす私、弱い。
『人を好きになったり、しない?』
「、」
黒川夜は手を顎に寄せ眉根を寄せる。どうやら本気で考え込んでいるらしい。
「…それになんの利益があるの?」
(…だめだ、この人)
物事を利害計算のみでしか考えられない男らしい。
嫌みなしに真顔で訊いてくるからタチが悪い。
『利益、とかじゃなくてさ。あぁ、もう…だから…なんていうんだ、』
(…私だってそんな真面目に考えたことないよー)
考え始めたらわからなくなって両手で頭をクシャクシャ。
そんな私を小首を傾げて不思議そうに見つめる黒川夜。
(…わー、だから見つめないでって)
「なにしてるの?」
『あなたのせいです』
「…僕の?」
更に傾げられたその首の角度もその瞳も、何から何まで色気が有りすぎて危ないからやめれ、とは、言えなくて。
ただただ彼の背後で輝く朧気な月が目に焼き付いた―――。