先生、私じゃダメですか?
「失礼します。」
きびきびと職員室へ入って行くミホの後ろについて行く。そして、相野先生のいる机まで行くと、ミホが整然と声をかけた。
「すみません、相野先生、少しいいでしょうか。」
相野先生が机の書類から顔をあげると、じっとミホの顔を見据えた。
「…あれ?もしかして…ケースケの妹?」
「はい。妹の赤木ミホです。」
ミホの対応には無駄がない。あれだけ先生の悪口を言っていたのに、今はきびきびと先生と話している。
さすがだなぁと思っていると、ふと先生と目があった。
「あれ?お前…」
「…っ!!」
突然の事に声を詰まらせると、すかさずミホが言った。
「この子が今日、先生からズックを借りたと聞いたので、一緒に返しに来たんです。」
ふーんと先生はうなずくと、顔を近付け私のネームプレートを見る。
「桜沢……」
「…あっ、け、けいって読むんです!!」
あわててしゃべると、先生は不思議そうに私を見た。そしてすぐにミホの方を向くと、
「こいつとお前は同じクラスなのか?」
と聞いた。
ミホはにっこりと愛想笑いを浮かべて、
「はい。中学の時からずっと同じクラスなんです。」
と答えた。
先生はニヤリと笑った。
「よかったなぁ、桜沢。しっかりした友達がいて。入学そうそうズック忘れて半べそかいてたやつ、俺初めて見たぞ。」
たっぷり皮肉をこめたその言い方に、まわりで聞いていた先生方が、私たちを見てクスクスと笑った。
カチンときた私は顔を真っ赤にすると、その場でズックを脱いで「ありがとうございました。」と言うと、ミホを引っ張り早歩きで職員室を出た。
「おー…。結構威勢いいじゃん。」
そう呟いた先生は、また机の書類に目をおろした。