もう会えない君。
第二章 隣人
マンションに着き、二人でエレベーターに乗った。
私が三階のボタンを押そうと手を伸ばした時、隼の手が三階ボタンを押した。
「え、酒井くんって三階に住んでるの?」
私の問いに隼はすっとんきょんな顔をしてこう言った。
「303号室に住んでるけど?」
返って来た言葉に耳を疑った。
…私の隣の部屋の人って隼だったんだ。
「私…隣なんだけど」
「なんか凄い偶然だな」
さすがの隼も驚きを隠せないのか、作った笑みは微かに引きつっているように見えた。
三階に着いた事を知らせる軽快な音が鳴り、扉が開いた。
「あ、ごめん…荷物持たせっぱなしだったね」
私は自分の手元に荷物がないのを思い出し、隼の方に視線を向けると隼は私の荷物を手にぶら下げていた。
私は隼の手元から袋を取り、もう一度、お礼を言った。
302号室で立ち止まる私の後ろを通り、303号室の扉の前で立ち止まる隼。
どちらからというわけでもなく、視線が重なった。
「お先にどうぞ?」
隼が柔らかく微笑みながら私に言う。
だから私も笑みを浮かべて、
「今日はありがとう…また明日ね」
と言って手を振って部屋の中へと入った。
鍵を閉めたと同時に隼も自分の部屋に入ったのか、バタンと扉が閉まる音が静かに響いていた。