もう会えない君。
私が微笑むと九条皐も微笑んだ。
…トクン。
胸が高鳴った。
だけど私は知らなかった。
本当の恋が始まろうとしている事を――――。
この高鳴りが意味するものの意味に気付かなかった。
恋は突然だ。
出会いも突然、訪れる。
これが私と皐が初めて言葉を交わす“きっかけ”だった。
軽快な音と共に扉が開いた。
私は皐より一歩早くエレベーターを降り、出入口に向かう。
「ねえ…途中まで一緒に行かない?」
丁度、外に出た時に後ろから少し遅れた皐が言葉を発した。
だから私は頷いて途中まで一緒に行く事にした。
皐は西高校に通う一年生。
隼と同居中だから家賃は割り勘なのだと皐は笑いながら口にした。