秘密のMelo♪y④*ウィーン編㊦*
ぼそぼそと話し込む俺達がいるのは、出入り口から比較的近く。
入ってくれば何の障害もなく見える辺りだ。
外のほうも騒がしく声がしていたはずなのに、やがてなぜかしんとなった。
それを不審に思うヒマもなく…キ…と扉は開き。
―し…ん…
普段のマヒロからは考え付かないほどに綺麗に着飾った、まるで別人の“藤峰真裕”が、そこにはいた。
とても優雅で。
冗談交じりに本人が言った『高嶺の花』。
まさにその通りで。
その美しさと、身にまとう高貴としか言いようのないオーラがマヒロを包み込んでいた。
歩くたびにシャンシャンと音がしそうなほどのジュエリー達。
いつもの可愛らしい雰囲気には到底似合わないドレス。
“天才バイオリニスト藤峰真裕”の象徴である漆黒の長髪は、ゴージャスに盛られていて。
隣に立つカエデもまた、同じくらいに『高嶺の花』に見えた。
互いが互いを光らせている。
なんてカップルだよおい…。
アイツらやっぱり……俺達の手の届く相手じゃねェな…。
『……こちらにございます…』
案内人が冷や汗をかきながら、舞台前の席を手で指した。
マヒロは表情を変えず、ゆっくりと歩いてそこに座った。
カエデは…なぜかその斜め後ろに、まるで執事が付き従うように立っている。
アイツ…旦那だろ? 次期社長だろ? なぜまた…。
そう思ったけれど、ふと周りを見て気が付いた。
付き添いの男はみんな、女性の一歩後ろにいる。
こういう場ではいつもそうなのか…はたまた今日限りなのかは分からないが、ともかく今日は全面的にレディファーストらしいな。
……あれ。
今…あの藤峰のおやっさんの顔が頭に…。
あの人の案だろうか。……なんかそんな気がしてきたぞ。
この徹底ぶり。極端なまでの徹底ぶり。絶対あのおやっさんの差し金だぁな。