記憶のつぶ
やけに店内の音が大きく聞こえた。


「私の家は近くなんですが?」
本当に聞きたい事とは違う気がした。


「いや‥車で30分位。行くか?」
「いえ!?今日は晩いし‥」

それだけ?

その男から離れるの嫌なんじゃねぇの?



言葉ではでてこない。


「明日またお会いできますか?凪の井という旅館に泊まってますので。」
「いいっすよ。10時くらいに行きますよ。」
ガタガタと立ち上がる。
解散の雰囲気。

幸は座っていた。

私はどうしたら‥というのが伝わってくる。
「タクシー頼んでくるから待ってて。」
克哉にそういわれホッとしたようだ。
「そちらは?」
「大丈夫です。」

結局
克哉はここの払いも済ませ、タクシーで二人立ち去った。


「裕一郎さん‥」
泰智がなんとも言えず立っていた。
「代行頼んでくる。」


「な〜んか不思議だな。」

「え?」
「いや‥」
苦笑した。

好きな女の気持ちが離れていた。
まだどこかに期待があったからか、ちょっとキツイな〜‥
俺の顔を困ったようにみる。
不思議だ。



痛っ‥

手をきつく握っていたらしい。
掌に血が付いていた。
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