記憶のつぶ
『うーん‥』
それまでは一人で映画館なんて簡単に行けた。
でも家から一歩も出ていないその時のあたしには至難の技だった。
『DVDになるまで我慢しようかな‥』
『行こうぜ。
俺が守ってやるよ。』
ドクンって心臓がなった。
『‥悪いよ。そこまで‥』
『守りたいんだ。幸を‥』
『な、なんか告白されてるみたいだね。』
精一杯、冗談言わないでよ〜の乗りで言った。
『してんだよ。』
ドンドン心臓が早くなった。
この心臓はあの時の後遺症じゃないかとか馬鹿な事を考えた。
『‥いいの?あたしで‥』
『幸がいいんだ。』
裕一郎があたしに手を伸ばす、あたしは一歩引いてしまう。
『ごめん!あれ?なんでだろう‥』
触れられたいのに体は身構える。
『いいよ。ゆっくりゆっくり進んでいこう。』
次の日からあたしは外にでた。
更にしばらくして働きにも出れた。
裕一郎とは頻繁に逢っていた。
ただ
ちょっと距離が保たれる、それがあたし達の距離だった。
―‥‥―‥‥‥‥