記憶のつぶ

旅館が用意した車には、フルに乗っていた。乗れない人もまだいるけど‥
「もう一台ご用意いたしますので、申し訳ございませんがもう少々お待ちください。」
何度もペコペコしている。
そんな光景を眺めながら、私達は出発した。


車の中は何も流れず、隣は知り合いのはずなのに時折こそこそっと何か聞こえるだけで、皆一様に黙っている。
会場が近づいて来ているせいか、外の音の方が大きく聞こえる。


『車置くとこねぇな〜』

「え?」
「どうかした?」
今‥
なに…か…?
「大丈夫?」
「‥えぇ、ごめんなさい。」

外を歩いている人達の会話?

‥随分しっかり聞こえたけど‥



変に胸が高鳴っていた…



「では、9時までにここにお集まりください。」

みんな楽しそうに散らばってゆく。
「さて、行きますか。」
人波に私たちも溶け込んで行く。
触れそうな触れなさそうな距離を保つ。
‥それが私達の距離。

「何食べようか?」
「なんか屋台でもでてますよ。」
びっくりしたように私の顔を見る。
その顔に私もびっくりしてしまう。
「何か‥ここ知ってる?」
「…いえ‥
ただ焼きそばみたいな匂いが‥」
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