孤独の空
と言いかけたところで、やめた。
なんとなく言わないほうが良いような
気がして。「花ちゃーんっ!はい、
鍵ね。先生は今日ズル休みして保健室
開いていないってことにするわね。
じゃあ楽しいひと時を~♪」陽気な
佐藤先生。鍵を私の手にしっかりと
握らせるとスキップしながら職員室へ
旅立って行った。にしても可笑しな
先生だ。若いっていうのに、なかなか
筋が通っている。たまにサボったり
とかいい加減なところもあるけれど。
頬が緩んでしまう私。いけない、
気を引き締めなきゃ。「鍵もあること
だし、積もる話は保健室でしよ」
「あ、うん」保健室のドアを開けると
まだ暖房がついていなくて肌寒い。
その時、遠くから物音が聞こえた。
「昨日のアレ見たー?」「うん!見た
よー。凄くいいところで終わった
よねぇ」「うんうん!続き早く見たい
なー」嘘、もう来たの?!時計を
見ると7時25分。やばい、想定外。
早く保健室に入らなくちゃ。斉藤の
腕を強引に引いて保健室へと
放り込む。「おぅわっ」「しっ!
静かに!」慎重に内側から鍵を
掛ける。物音がしたらここに斉藤が
いることもバレるし、私がいるという
こともバレてしまう。そんなことに
なったらもう学校には行けない。
佐藤先生にも気をつかってもらった
のに申し訳ない。「よし・・・
とりあえず、安心」鍵が掛かったこと
を確認すると近くの椅子へ腰を
下ろした。落ち着くと斉藤を放り
投げたことを思い出す。「おーぃ・・
・ちょっと起こすの手伝って・・・」
「っごめん!」私は斉藤の手を引く。
さすが男の人。重い・・・。「んっ
しょぉ!」「おっとっと・・・。
ん。ありがと」斉藤はあの特有の
笑顔でお礼を言った。そんな顔
されたって騙されなんかしないんだ。
絶対に。
< 10 / 12 >

この作品をシェア

pagetop