【2】口内炎バトル
「ひぃっ」
 桃子は腕をジタバタさせた。誠治は気にせず、綿棒を動かした。
「桃子、もう少しだ」
「ひぃ」
「その痛みの先が、卓也との幸せだ」
「うう」
「終わったよ」
 桃子は口を手で押さえて、痛みに耐えていた。
 そんな桃子に、誠治は最後の一品を手にした。
 一般的に余り知られていないが、のど用スプレーには、口内炎に効くと表記のあるものがある。
 誠治は、のどの痛み・口内炎に、と書かれた部分を指差した。
「知らなかったわ」
 桃子がようやく口を開いた。
「まあ、マイナーだからな」
「それで、どうするの」
「もちろん、かける」
「えっ?」
「追い討ちだ」
「染みるよね」
「冷血に噴霧する」
「さっきより染みる?」
「皆殺しにする。情けはかけない」
「口内炎には良いけど、私に情けは掛けてよ」
「兄ちゃんの行為が、桃子への愛だ」
「解ったわよ。早くやって」
「いくぞ」
「いいわ」
「くたばれ、口内炎」

 シュシューッ。

「きゃああ」
 桃子の声が、部屋中にこだました。
 高らかに笑いながら、口内炎を攻撃する兄は、これ以上もないエクスタシーを感じていたに、違いない。
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