【2】口内炎バトル
「毎日、これをやるんだ」
 誠治は突き放すように言った。
「毎日するの」
 桃子は目を丸くした。
「考える時間は、残されてはいない。目を丸くしたって駄目だ」
「うえーん」
「どうだ、少し痛みがマシになっていないか」
 そう言われてみると、桃子は口内炎の痛みを忘れていた。
 いや、明らかに軽減されている。
「お兄ちゃん、効いてるよ」
「そうか」
「すごいね。お兄ちゃん」
「当たり前だろ」
「さすが、口内炎ファイター」
「もっと言ってくれ」
「お兄ちゃん、調子乗り過ぎ」
「なあ、肝心の麻婆豆腐は作れるのか」
「そっちは大丈夫よ」
「余裕だな」
「料理が得意なのは、知ってるでしょ」
「そうだったな」
「これで、粗びき山椒たっぷりの麻婆豆腐が作れるわ」
「まだ治ってないのを、忘れるな」
「分かってるわよ」
「卓也の誕生日まで、痛みを伴う試練が、待っているのだぞ」
「頑張るよ」
「よし、良い心構えだ」
「お兄ちゃんの妹だもん」
「そうだな」
「お兄ちゃんも、勉強、頑張ってね」
「任せとけ」
 兄妹は抱き合って、健闘を讃え合った。
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