【2】口内炎バトル
「お兄ちゃん。口の中に、白いものが出来たよ」
 夕食後、桃子がポツリと言った。
「どれ、見せてみ」
 誠治はすぐに反応した。
「ほら、下唇の裏。小さいけど」
「桃子、口内炎だな」
「口内炎なの」
「桃子は幸せなんだよ。お兄ちゃんは、一年の半分以上を、口内炎との戦いに費やしている」
「なんか自慢してませんか」
「歴戦の勇者だ」
「今もあるの」
「安息日だ」
「じゃ、ないのね」
「また、出来る」
「出来てほしいの」
「複雑なお兄ちゃんの気持ちを、分かってほしい」
「複雑なんだ」
「そう、複雑なのさ」
「どうでもいいけど、痛いんだって。何とかならないかしら」
「放っておいても、長くて二週間ぐらいで治るよ」
「二週間も?」
「そうさ。問題あるのか」
「大アリよ!」
 桃子は兄の講釈に付き合っていたが、ようやく声を荒げた。
「何で?」
「何でもよ」
「どうして?」
「どうしてもなの!」
「お兄ちゃんに話せないことなのか」
「お兄ちゃん、受験勉強で忙しいでしょう。だから……」
「大切な妹の話だ」
「興味本意じゃない?」
「兄として、心して聞くよ」
「実はお兄ちゃんにしか、話せなかったんだ」
 桃子はそこまで話すと、うつ向き加減になった。
< 2 / 21 >

この作品をシェア

pagetop