【2】口内炎バトル
「可愛い妹が作った手料理だ。食べるよ」
 誠治は勢い良く食べ始めた。
「粗びき山椒が、よく効いていて、美味し過ぎて、涙が出てきたよ」
 誠治は、本当にボロボロと涙を流しながら、桃子の手料理を完食した。
 三人の食卓は、賑やかなうちに終わった。


 その夜、桃子は、ひとり洗面所の鏡の前にいる誠治を見付けた。

「お兄ちゃん、今日はありがとう」
「麻婆豆腐、美味かったよ」
「山椒を効かせて、ごめんね」
「ごめんって、お前」
「涙流して食べているお兄ちゃんを見て、やっと気付いたの」
「何が解ったと言うんだ」
「私って、鈍感ね」
 桃子はそう言うと、誠治の唇に指を添えた。

「バレてたか」
「解ったわよ」
「そうか」
「痛いんでしょ」
「泣けるほど、染みたよ」
「お兄ちゃんには、苦労かけたから」
「受験勉強のストレスだよ」
「ねえ、見せてよ」
「見るか」
「お兄ちゃんの痛みは、私の痛みでもあるから」
「では、妹よ。しかと見届けよ」
「しかと、見届けるから」
 誠治は唇をめくった。

 鏡に映ったのは、紛れもなく痛々しい口内炎だった。

「トライアングル・スペシャル、って言うんだよ」

 誠治はニコリと笑った。

―完―
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