【2】口内炎バトル
「さあ、本題を話せよ」
「本題?」
「なぜ、口内炎が治る二週間が困るのか、だろ?」
 話の脱線が多過ぎて、桃子は本題を忘れていた。
 いや、脱線などしていない。兄は話の筋道を、きちんと捉えようとしている。

「ごめん。そうだった」
「口内炎が痛いのか」
「痛い」
「我慢しろ」
「うん」
「問題解決か?」
「そんな訳ないでしょ」
「だよな」
「そうよ」
「話せよ」
「もうすぐ卓也の誕生日なの」
「いつだ?」
「来週末よ」
「土曜日だな」
「8日しかない」
「それで?」
「麻婆豆腐を作るの」
「マーボー?」
「卓也が食べたいって」
「口内炎に染みるな」
「染みるよね」
「天敵だ」
「どうしよう」
「卓也は他に何か言ってたか?」
「山椒を効かしたものが、好きだって」
「山椒か」
「粒山椒の粗びきを沢山入れた方が、美味しいって」
「卓也はいつも正論だ」
「やっぱり染みるよね」
「最悪だな。粒は物理的にも当たって余計に痛い」
「困ったわ」
「麻婆豆腐を別の食べ物に変えられないのか」
「約束したのよ」
「約束は守らないとな」
「そうよ」
「ひとつ解ったぞ」
「なに?」
「桃子の口内炎の原因」
「何よ」
「恋の病」
「あっそ」
「だろう?」

 顔を覗き込む誠治に、桃子はプイっと顔を背けた。

「お兄ちゃん、ちゃんと考えてよ。私は真面目に相談しているんだから」
< 4 / 21 >

この作品をシェア

pagetop