【2】口内炎バトル
 次の日、桃子は学校の帰りに、兄のメモに従い、薬局で買い物をした。

 そんな折りに、誠治は卓也に呼び留められた。
 誠治も卓也も受験生である。学校の授業が終われば、未練なく家路についた。


「誠治、一緒に帰らないか」
「おっ、卓也。帰ってやってもいいぜ」
「僕が一緒に帰ってやるんだよ」
「素直じゃないな」
「そっちこそ」
「俺が好きなんだろ」
「何で?」
「言ってみただけだ」
「なら言うな」
「下らないやりとりが好きだ」
「我慢しろ」
「頑張ってみるよ」
「話がある」
 卓也は唐突に切り出した。
「だろうな」
 誠治は横を向いたまま答えた。
「だから、声を掛けた」
「分かってる」
「桃ちゃんのことだ」
「聞いたよ」
「麻婆豆腐を頼んだ」
「それも知ってる」
「困ってる」
「何で?」
「これを見ろ」
 卓也は下唇をめくった。
「これは、トライアングル・スペシャル!」
「なんだ、名前があるのか」
「俺が名付けた」
「あほくさ」
「アホクサ言うな」
「痛いんだよ!」
「そりゃ、そうだろう」
「トライアングル・スペシャルを説明しろよ」
「話せば長くなる」
「誠治、聞かなくても良いのか?」
「いや、是非聞いてくれ」
「素直に言えって」
「心の準備が必要だったのだ」
「何の?」
「興奮冷めやらぬ状態だったので」
「そんなに酷いのか」
「ステージ4(フォー)。末期だ」
< 7 / 21 >

この作品をシェア

pagetop