【短編集】闇に潜む影
プロローグ
あるところに、一人の敬虔な修道女がいました。
その人は大変にやさしくて、
困っている人に物を与え、
苦しんでいる人を慰め、
大変徳の高い人でした。
神様が大層ほめられて
『おまえの望みは何でもかなえてあげよう』と言われました。
修道女は
『一つお願いがあります。神様、私の心を見せて下さい』と申しました。
神様は困って、それだけは見せてあげられないと言われました。
『それではもう何もいりません』。
神様は困ってとうとう彼女の心を見せてあげました。
ところが、自分の心を見た修道女はびっくりして卒倒しました。
そして遂に発狂してしまいました。
加賀乙彦氏 『生きるための幸福論』より。
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