【短編集】闇に潜む影
思い返せば、幼い頃の記憶は、惨めそのものだった。
母親に罵倒され、嘲笑され。
挙句の果てに、殴られ、蹴られ、傷だらけになっていて。
今でも、体のあちこちには、うっすら傷が残っている。
それらを見るたびに、私は昔を思い出す。
思い出すだけで惨めで苦しい、遠くて近い昔を。
忘れたい。
忘れたいのに、忘れられない。
顔にファンデーションを塗れば傷は隠せる。
洋服を着れば、体の傷はほとんど隠せる。
でも、それは一時的なもので、ほとんど気休めに過ぎない。
化粧を取れば。
服を脱げば。
傷は、消えてなんかいない。
決して、消えることは無かった。