【短編集】闇に潜む影
「君、・・・まさか本気だったわけじゃないよね?」
私たちは、応接室にいた。
隣には、教頭がそわそわして私に問いかける。
目の前の彼女は、がたがたと全身を震わせ続けていた。
がちがちと、歯がぶつかる音がする。
私は一度もその彼女から目を離さなかった。
じぃ、と睨み付けることなく、見つめ続けながら、
へらへらと笑う担任に向かって言い放つ。
「いえ。本気でした」
「・・・は?」
担任も教頭も、同時に声を上げた。
「あのまま殺すつもりでした。もうこれ以上、いじめられ続けるのは嫌だったので」
「・・・はは。まさか」
乾いた笑いが、応接室に響いた。
私は、自分の両手を組んでみた。
さっき、首を絞めた感触が、まだ残っていた。
その感覚は、私にかすかな幸福感と、開放感を与える。
もう、我慢しなくて良い、と。
そう語りかけてくれた気がした。
「良かったですね。殺人事件が起こらなくて。
記者会見やら報道やら教育委員会への対応やらで、
メンツ丸潰れになるところを防ぐ事が出来て」
しんと静まり返った応接室の中、私は微笑を浮かべ、イスから立ち上がる。
「それじゃあ。
・・・あぁ、・・・教室でまた、仲良くやりましょうね。
学級委員長」
私のその声に、彼女の両肩がびくっと上下した。
真っ赤になった首が、痛々しい。
でも、私が味わい続けた痛みは、それくらいでは足りない程。
「失礼しました」
私は一礼をして、応接室を後にした。