【短編集】闇に潜む影
家が見えなくなるくらいまで走って、
ようやく俺は歩き出した。
誰もいない夜の道を一人で歩く。
街灯だけの夜道に吹き抜ける夏の風は、
血の上った俺の頭を少しは冷やしてくれていたような気がした。
夜の空を見上げれば、
夏の星座が見える。
「・・・えーっと、あれが夏の大三角形だっけか」
俺の声だけが響く夜の道は、まるで自分しかいない世界のようで、
それはとても幻想的だった。
「あれは、・・・白鳥座だっけ。あれはこと座かな」
独りで呟きながら、俺は夏の夜空を見上げながら歩き続けていた。
俺の足音だけしか聞こえない。
俺の影しか、人影はない。
向かう場所は定まっていない。
いつもの俺の“避難所”は、今日に限って“臨時休業”だ。
俺は思い切り、大きくため息をついた。
と、その時だった。
突然、目を開けていられない程に眩しい光が現れた。
俺は立ち止まって、その光に手をかざしながら、その正体を探ろうとした。
そして、次の瞬間。
耳をつんざく衝撃音が、あたり一面に響き渡った。