【短編集】闇に潜む影
私たちはすぐに体を離して横に並んだ。
収録時間は大してかからないと聞いている。
どうせテレビに流れるのは、数分もないのだろう。
「あの、ご職業は何を?」
司会者の男が、らんらんと目を輝かせている。
私はカメラに向かって微笑んだ。
毎朝、鏡の前で微笑んでいるように。
「はい。実はコンサル会社の社長をやっておりまして」
「社長!?そのお年で」
「はい、大学卒業してからすぐに企業しましたので」
「そうですか、すごいですねー。
それでは、○○さんとの学生時代の思い出話を教えてください位」
司会者のマイクに向かって喋る、
真っ赤な色の思い出話は、昨日考えて作り出した。
彼女もそれに頷きながら、楽しそうに喋っている。
あぁ、つまらない。
楽しくない。
今日は、私が持っている洋服の中でも一番良いものを着て、
香水の中でも一番甘くて気品のあるパルファンを付けて、
化粧も、髪も、プロに施してもらってきたのに。
結局皆は、私を、隣に立つ彼女のお飾りとしか見ていない。
なんて面白くないのだろう。