【短編集】闇に潜む影
「よくも平気で私を呼びつける事が出来たわね」
移動した先は、彼女の控室の前だった。
私は、向き合う彼女に、そう言葉をぶつけた。
一方、彼女はその顔にうっすらと笑みを浮かべて、こう答えた。
「だって、・・・あなたくらいでしょう?
テレビに出てくれと頼んで、来てくれる人って」
「ふん、どういう意味?あぁ、絵になるってことで?」
私に向けられたその笑顔は、美しかったけど、明らかに、侮蔑そのものだった。
「あははは。勘違いもそこまでできると幸せよね」
彼女の高らかな笑いが、誰もいない廊下に響き渡る。
「目立ちたがりで、見栄っ張りで。・・・相変わらず変わらないのね。10年前と」
10年前。
1度だって忘れたことがない。
薄暗いトイレで、不気味な笑顔を浮かべたあの顔を。
皆の歩く中、廊下で一人、高らかに笑う、あの姿を。
思い出すだけで反吐が出そうになる。
私は彼女を睨み続ける。
これまでの10年間の、恨みを込めて。
そんな私を見て、くすり、と彼女が笑った。
そして、私の全身を、上から下まで見渡した。
「企業家ねぇ。私が聞いた話だと、
アナタ、借金まみれで返済のためにフーゾクで働いているって聞いたけど?」
私は、口にする言葉が見つからなかった。
頭の中が真っ白で、
今、自分が何をしているのか、それすらも分からなくなりそうだった。
困惑する私に、彼女はさらに追い打ちをかけてくる。
「どうせその洋服も、鞄も、靴も、全部借金して買っているのでしょう?」