【短編集】闇に潜む影
「ここ入んなよ」
そういわれると同時に押し込まれたのは、一番奥の和式トイレの個室だった。
押された勢いで、壁に背中がぶつかる。
息をするのが苦しい。
女の子たちが狭い個室に入り込んでくる。
「あんた、自分の上履きの下、見て」
言われると同時に、私は自分の足元を見た。
「そこの生理の血の混じったおしっこ、あんたでしょ?」
足をあげると、上履きの底は、
確かに、黄色と赤色で汚れていた。
明らかにそれは言いがかりだった。
私は今日、ここのトイレを使っていない。
「あんた、それ掃除しなさいよ。汚しておいてそのままにするなんて、最低じゃない?」
彼女はにやり、と笑った。
真っ赤な口紅が引かれた口から、白い歯が見えた。
「早くしなよ」
「くさいんだけど」
「ぐずぐずしないでさぁ」
彼女の後ろで、取り巻きがはやし立てる。
耳障りな声が、私の中で蓄積されていく。
耳をふさげない、いや、ふさがない私は、
何かを抑えるように息を深く吸い込んで、自分を落ち着かせた。