【短編集】闇に潜む影
「あのね、・・・何度も聞くけど、どうして娘さん、あんな所にいたの」
目の前に座る男が、私を覗き込むように見てくる。
「知りませんよ、そんなの。あの子が勝手に行っただけでしょう」
パイプいすは辛い。
かれこれ2時間は座っている。
お尻が痛くなってきた。
「あのなぁ。
こんな夜遅くまで6歳の娘が返ってこなかったら、
普通は心配して探したり警察に連絡したりするだろ?」
「別に。うちは放任主義ですから」
「・・・お前なぁ、それは放任じゃなくて、ネグレクトっていうんだよ」
男は呆れたような顔をして、ため息を吐いた。
「うるさいよ、おっさん」
「・・・本当に君は、全然反省していないようだね」
男はため息交じりにそう呟くと、その席を離れた。
そして、
近くに立っていたもう一人の男に耳打ちすると、その人は部屋を出て行ってしまった。
「君、とりあえず今から逮捕するから。これから令状示すね」
男がそういうと、1分もしないうちに、
さっき出て行ったもう一人の男が紙を携えて帰ってきた。
そしてそれを、目の前の男に渡すと、その人は私にその紙を見せた。
「はい、逮捕状。君には傷害の疑いがあるから、逮捕するよ。午後8時30分、逮捕」
目の前の刑事は、そう言いながら、その紙に時間を書き込む。
私はただ、それをぼーっと眺めながら、「彼」とのこの前の夜のことを思い出していた。
上手かったなぁ、と。
今度はいつになるかなぁ、と。