【短編集】闇に潜む影
「雑巾を」
私はそう言って、出ていこうとした。
だけど、すぐにまた押し戻された。
「は?何言ってるの」
彼女は私の髪を思い切りつかむと、床に着くぐらいに引っ張った。
その強さに負けて、私の膝と両手がトイレの床についてしまった。
掌に、嫌な感触が走る。
「あんたの口から入れて、あんたの体から出て行ったものでしょ?
それなら、また口の中に入れたら良いじゃない。
舐めて綺麗にしたら?」
ケタケタと彼女が笑う。
周囲も同じように笑っていた。
それはとても乾いた笑いで、
同時にとても冷たかった。
私の視界には、その子の足のすねと、黄色と赤色が混じった水たまりがあった。
全身が、とても冷たかった。
冷や水を浴びせられたように、背筋にゾクゾクと悪寒が走る。
そして、私の両手は、何故かぶるぶると震えていた。